2013年4月14日日曜日

紛争地帯で教訓学び、慎重になる中国企業:株式の65%は国有企業が

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JB Press 2013.04.12(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37573

紛争地帯で教訓学び、慎重になる中国企業
(2013年4月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 中国のエンジニアリング企業でダム建設では世界最大手の中国水利水電建設集団(シノハイドロ)が2008年にリビアでマンションの建設を始めた時、20億ドル規模のプロジェクトはこれ以上ないほど安全に見えた。
 国をしっかり掌握していた今は亡きムアマル・カダフィ大佐の政府に委託された事業だったからだ。
 だが、それから3年後、リビアが内戦に陥ると、シノハイドロは慌てて従業員を避難させる羽目になった。

 中国企業は何年にもわたって新興国に次々進出し、その過程で厳しい環境に置かれたプロジェクトを手がけるという評判を築いたが、リビアのような経験から、リスク評価のあり方が変わりつつある。
 中国政府の後押しも受けたこの変化は、中国企業がベクテルや現代建設、レイトンなどの国際的な建設会社と競争するようになったタイミングと重なる。

■リスクの高いプロジェクトにはもう手を出さない

 「涙を流すよりは我慢した方がいい」。
 シノハイドロの取締役会秘書、ワン・ジーピン氏は、外国メディアとの初のインタビューで本紙(英フィナンシャル・タイムズ)にこう語った。
 経営トップの1人であるワン氏は、シノハイドロ本社のがらんとした部屋で、リスクのあるプロジェクトの受注に成功して後で悔やむよりは、最初から見送ると説明する。
 幹部5人を従えたワン氏は、シノハイドロは5年ほど前に慎重な方針を採用することを決めたと言い、
 「当時はリスクを防ぐ意識が低かった」
と語る。
 中国の三峡ダムを建設したシノハイドロは過去10年間、海外で事業を急拡大しており、
 2011年には国外での契約案件が売上高183億ドルの47%を占めた。
 世界60カ国でプロジェクトを手がける同社は世界第14位の大手建設会社で、鹿島建設や大林組といった日本企業の上を行く。

 中国政府によると、中国のエンジニアリング企業は昨年、中国国外の案件から1170億ドルの売上高を上げた。
 過去10年間で10倍に増えた格好だ。
 また、業界誌のエンジニアリング・ニューズ・レコードによると、世界の上位10社の建設会社のうち、今や5社が中国企業だという。
 中国の建設会社は技術力で競えるが、政治的なリスクへの対処という大きな課題に直面する。
 リビアやマリ、アフガニスタンなど戦火で荒廃した地域での誘拐事件を通じ、身をもって教訓を学んだ後は特にそうだ。

 鉱山や道路から発電所、サッカー競技場に至るまで、シノハイドロが海外で手がけるプロジェクトの多くは、ホスト国に対する中国の融資で資金が賄われ、融資は原油などの資源で返済される。
 このモデルは、融資がなければ必要なインフラの建設を見送ったかもしれない財政難の政府の助けになったものの、その結果、中国企業は世界の紛争地帯の多くで危険にさらされることになった。
 「リスクが高すぎたら、(今は)とにかく行かない」
とワン氏は言う。
 「我々の最大の懸念は、武力紛争を含め、海外市場の政治的リスクが招く不安定さだ

 シノハイドロの「警戒」リストには、イラク、アフガニスタン、ミャンマーが入っている。
 ミャンマーでは2011年に、軍事政権が36億ドル規模の水力発電プロジェクトを一方的に打ち切った。
 同社の姿勢は、例えばイラクのプロジェクトで主導的な役割を担い始めた石油企業などの中国国営企業より若干保守的だ。
 シノハイドロによれば、政治的な不確実性は現地で利益を上げるのを難しくしかねないため、株主は会社側のリスク回避姿勢から恩恵を受けるという。
 シノハイドロは上海市場に上場しているが、今も国の一部門で、株式の65%を国有企業の親会社が握っている。

■大きな犠牲を払って得た教訓

 こうした態度の変化は、大きな犠牲を払って得た教訓を反映したものだ。
 ワン氏によれば、リビアでの紛争により、シノハイドロは契約中断で12億ドル、評価損で2億ドルの損失を被ったという。
 「それも推定の数字にすぎない」
とワン氏は言う。
 「その他の損失、例えば車が何台爆破されたとか、物理的な資産で正確にいくら損害が生じたとか
・・・正確な数字をつかむのは非常に難しい」

 シノハイドロはほかの紛争にも巻き込まれ、南スーダンとアフガニスタンでは従業員が殺害されたり、誘拐されたりした。
 また、現在のマリの紛争では、同社の水力発電プロジェクトの1つが台無しになる恐れがある。
 警戒を強めるシノハイドロの姿勢は、ほかの中国企業にも広がっている。 
 中国政府が注意を促していることも、その一因だ。
 商務省は最近、海外での契約について新たな規制を発表した。
 より厳格な環境基準や新しい汚職防止規則などを盛り込んだもので、中国が海外で商業的な存在感を急激に高めたことに伴う問題を暗に認めた形だ。

 中国の建設会社は当初、「外へ出ろ」という中国政府の走出去政策を支えるために用意された潤沢な政府保証付き低利融資によって海外進出を促された。
 政府との密接な関係は、各社が市場シェアを獲得する助けになった。
 例えば、米国の環境団体インターナショナル・リバーズが集計したプロジェクトのリストによると、シノハイドロが海外で手がけている204件の水力発電プロジェクトのうち、80件が中国の銀行の融資を得ている。

■先進国に目を向ける中国企業

 シノハイドロは今、新興国の枠を超えて事業を展開したいと考えている。
 そうすれば、政府保証の融資に対する依存度を下げることにもなる。
 「欧州市場と米国市場が国際事業の次の焦点だ。
 我々は世界に通用する建設会社になりたいと思っている」
とワン氏は言う。

 だが、先進国への進出は常に容易だとは限らない。
 中国企業数社は欧州のプロジェクトで苦しんだ。
 中国中鉄の子会社である中国海外工程集団(COVEC)は、ポーランドの幹線道路建設の入札を勝ち取ったが、プロジェクトの途中で切られた。

 こうした問題にもかかわらず、多くの専門家は、中国企業が最も競争が熾烈なエンジニアリング市場で成功すると考えている。
 アジア開発銀行の投資専門家、木村寿香氏は、中国勢が技術的に洗練されてきたことがその理由の1つだと言う。
 楽観的な向きは、今では世界最大級に数えられる韓国と日本のエンジニアリング企業も「安くて快活」であるところからスタートしたと指摘する。
 中国のインフラ案件に助言するピンセント・メイソンズの弁護士、ソーラブ・ラヒリ氏は
 「30年、40年前に英国と米国の企業が世界のインフラを建設し、その後、日本と韓国の建設会社が台頭したように、中国企業も同じトレンドをたどっている」
と言う。

By Leslie Hook
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【中国はどこへむかうのか】


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