2013年4月5日金曜日

中国を敬遠する日本企業にインドが秋波:



●日印両政府、EPAの年内締結に意欲
2007年8月に訪印した安倍首相(左はインドのマンモハン・シン首相)〔AFPBB News〕


JB Press 2013.04.05(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37517

中国を敬遠する日本企業にインドが秋波
(2013年4月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 インドのパラニアッパン・チダムバラム財務相が3日、投資促進のための東京訪問を終えた時、同氏には日本の産業界がもっと多くの資金をインドに振り向けると期待するだけの理由があった。
 日本の新首相、安倍晋三氏はインドのファンだ。
 最初の首相在任中の2007年には、ニューデリーを訪問し、アジアの2大民主主義国を結ぶ新たな「自由と繁栄の弧」について語っていた。

 だがインド政府が秋波を送っているのは、資金力の豊富な日本企業だ。
 中国は伝統的に、こうした日本企業の新興国投資の多くを吸収してきたが、日本勢は今、中国の経済的、政治的変化に不安を感じているからだ。

■「中国に勝るとも劣らぬ魅力的な市場」

 インドが前四半期に過去最高水準を更新した経常赤字を穴埋めするために追加の外国資本を切に必要としている一方、日本企業は伝統的にインドに気前よく投資してきた。

 「日本の企業と投資家は様々な理由から、中国以外の選択肢を望んでいる」。
 チダンバラム氏はインドのテレビでこう語った。
 「インドは法の支配によって統治された巨大市場を提供できる。
 そのおかげでインドは中国に勝るとも劣らぬ魅力的な市場になっている」

 政府系機関の日本貿易振興機構(JETRO)の調査部に所属する梶田朗氏は、日本企業は何年も中国に重点的に取り組んできた後、
 「地域的によりバランスの取れた」アプローチを採用
し始めたと話す。

 HSBCのエコノミスト、チン・グエン氏が世界的な外国直接投資の構造的変化と呼ぶものの結果でもあるこのトレンドの下、多国籍企業は人件費の上昇や通貨高に直面して、
中国から別のアジア諸国にシフトしている。

 決してインドだけがその恩恵を受けるわけではないが、インドの国内市場の規模は若くて安い巨大な労働力と並び、競合する投資先が長期的に対抗するのに苦労するセールスポイントになる。
 これはまさにチダンバラム氏が今週の訪日期間中に強調していたテーマだ。

■拡大が続く日本企業の対印投資

 日本企業による新たな対インド投資の例を見つけるのは難しくない。
 自動車メーカーのホンダは2日、4億6000万ドルを投じてラジャスタン州に工場を建設する計画を明らかにした。
 それに先んじて日産自動車とトヨタ自動車も最近、投資計画を発表している。

 電機メーカーによる投資も増えており、パナソニックの山田喜彦専務は先月、パナソニックはインドを将来の成長計画の「中心」に据えると述べた。

 日本企業のM&A(合併・買収)を専門とするモルガン・スタンレーの投資銀行家、アンシュマン・タクール氏は、消費財、小売り、ハイテク機器メーカーからの関心が高まっていると話す。

 全体として見ると、日本はインドにとって過去2年間、先進工業大国からの対内直接投資の最大の源泉となっており、2011年には過去最高の30億ドルを投資した。
 こうした投資拡大は大きなトレンドの一環で、
 2014年には2国間貿易が250億ドルに達し、2010年の水準のほぼ2倍に拡大する見込みだ。

 日本企業はそれでも、インドに投資する他の投資家も苦しめられている不規則な規制や官僚主義、汚職といった問題に直面している。
 中国式の大規模な製造工場を設立しようとしている企業は、特に土地の取得やお粗末なインフラといった特定の問題にも直面する。

 それでも多くのアナリストは、特に政治的な力も日本の投資を新たな方向に押しやっているため、これらの障害は克服可能だと考えている。

■中国の暴動や不買運動が「追い風」

 東シナ海の島嶼を巡る領有権問題は、外交的な緊張を高めただけでなく、多くの場合、暴力的な中国人のデモや日本製品の不買運動に直面した企業の不安も高めている。
 「反中感情は間違いなく、日本の投資の方向転換を促している」。
 リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長はこう言う。
 「インドと東南アジアは最も投資が拡大する地域だが、安倍氏は個人的にインドに肩入れしている。
 インドには強い感情を抱いている」

 だが、日本企業は海外で慎重な姿勢を崩しておらず、インド進出事例の中にはその業績が大きな心配の種を提供しているところがある。

 NTTドコモは顕著な例だ。
 東京に本社を置くドコモは2008年、タタ・グループとの合弁事業の少数株主持分を取得するために27億ドルを出資した。
 これはインドでも著しく業績が振るわない携帯電話事業者を生んだ投資だ。

 だが、日本企業に最も大きなショックを与えた出来事は昨年7月に起きた。
 インドでも最大級の成功を収め、名声を確立したインド企業に数えられる自動車メーカーのマルチ・スズキがニューデリー郊外の工場で暴動を目のあたりにしたのだ。
 この暴動では、経営幹部が1人殺され、数十人の従業員が負傷した。

■日本にとって最適なパートナーになれるか

 それでもチダムバラム財務相は、このような注目を浴びる問題の影響は克服できると考えており、インドを日本の将来の最適な投資パートナーとして位置付けようとしている。
 これは経済界のリーダーたちの間でも支持を得ている見方だ。

 「日本は、低コスト生産を提供できるパートナー(ここでは中国の力が徐々に弱くなっている)と大きな国内市場を必要としている」。
 ムンバイを本拠とする金融アドバイザリーグループ、インダジアの創業者、プラディップ・シャー氏はこう言う。
 「インドは最有力候補のはずだ」

By James Crabtree
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レコードチャイナ 配信日時:2013年4月26日 0時4分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=71686&type=0

日中関係悪化で企業移転が加速、インドが最大の利益国に―英紙

 2013年4月24日、新華08網によると、英フィナンシャル・タイムズは「日本企業の投資先移転でインドが利益を得ようとしている」との記事を掲載した。
 インドのチダンバラム財務相は日本企業のインドに対する投資を促すための日本訪問を終え、手応えを得ている。

 インドは過去最大の経常赤字を補うため早急に巨額の外資による投資を必要としているが、日本企業はインドにとって常に最も“気前の良い”投資者の1つであるという。
 また、長年中国に注目してきた日本の企業が他の地域にも目を向けることでバランスをとろうとしている
と日本の専門家は指摘しており、その対象として巨大な市場を持ち中国同様の吸引力のあるインドが重要な投資先となっている。

 ホンダは4億6000万ドル(約460億円)を投じてインドに2カ所目の工場を建設する計画で、日産とトヨタもそれぞれインドへの投資計画を明らかにしている。
 ソニーやパナソニックなどのインドへの投資も継続的に増加しており、全日空も自由化されたインド航空業界への投資を検討しているとされる。

 人件費などのコスト上昇や人民元の切り上げなどで多国籍企業の中国離れが加速しており、日本企業にとっては領土問題などでの関係悪化も他のアジアの新興国への移転を加速させる要因となっている。
 そうした中、インドは唯一の利益国ではないものの、市場規模の大きさや若く安価な労働力はベトナムやミャンマーには目下ない優位となっており、最大の利益国だと伝えられている。



JB Press 2013.04.05(金) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37515

インドは世界の強国になれるか?
英エコノミスト誌 2013年3月30日号)

 「戦略文化の欠如」が、世界の一大勢力になろうとするインドの野望を妨げている。
 中国が世界の強国の仲間入りを果たしたことを疑う者はいない。
 時期尚早とはいえ、米国と中国の「G2」という考え方が取り沙汰された。

 10億を超える人口、経済的な将来性、貿易相手としての価値、そして高まる軍事力から、インドは中国と同等に語られることも多い。
 国連安全保障理事会の常任理事国5カ国はすべて――いかに不承不承であれ――、常任理事国入りを求めるインドの主張を支持している。
 しかし、中国の台頭が既定の事実なのに対し、インドは今も広く、なかなかしっかり行動できない準大国と見なされている。

 これは残念なことだ。というのも、インドには強国としてできることが山ほどあるからだ。
 中国と比べると貧しく、経済的にも活力を欠くインドだが、ソフトパワーには十分恵まれている。
 インドは民主主義の制度機構、法の支配、人権にコミットしている。聖戦主義者の暴力の被害者として、テロとの戦いの前線に立っている。
 インドには国外に住む優秀な人材が大勢いる。
 西側に取り込まれることは望んでいないかもしれないが、西側の価値観の多くを共有している。
 また、インドは自信に満ちていて、文化的にも豊かだ。
 インドが安保理常任理国だったら(その座は国連平和維持活動に一貫して貢献してきたことで手に入れることになる)、本能的に残忍な政権を許したり擁護したりすることはないだろう。

 中国やロシアと異なり、インドには恥ずべき秘密があまりない。
 広大な海岸線と立派な海軍(たびたび共同軍事演習を行う米国海軍はインド海軍を北大西洋条約機構=NATO=の基準に達していると評価している)を有するインドは、グローバルコモンズ(世界の公共領域)の極めて重要な地域で安全保障を提供する格好の場につけている。

■控えめな国

 だが、インドが安定をもたらす勢力、またルールに基づく国際システムの支えになる極めて大きな潜在性は、まだ全く実現されていない。
 その大きな理由として、
 インドには積極的な安全保障政策を追求する文化がないことが挙げられる。

 国防予算が急増し、2020年までに世界第4位にまで膨れ上がると予測されているにもかかわらず、インドの政治家や官僚は大戦略の構築にほとんど関心を示していない。
 インド外務省は話にならないほどお粗末だ。
 インドの12億の国民を代表する外交官の数は、人口500万人のシンガポールのそれとほぼ同数なのだ。

 軍の指導部と、政治家と官僚の支配層は別世界で動いている。
 インド国防省は慢性的に軍事的な専門性を欠く。

 こうした弱点は、国内の経済発展を優先させたいという現実的な思惑を反映した面もある。
 インドは賢明に、軍の将校らを政治から締め出してきた(他のアジア諸国、特にパキスタンではこの教訓が無視され、大抵、危険な結果を招いてきた)。

 だが、ネルー派のイデオロギーの影響もある。
 国内では、インドは幸い1990年代にファビウス的な経済理論を放棄した(そして、その成果を手に入れた)。
 だが外交上は、英国が去ってから66年経った今でも、インドはまだ独立後の半端な平和主義と「非同盟主義」に固執している。
 西側は信用ならないという考え方である。

 戦略的な自制というインドの伝統は、ある意味で国のためになってきた。
 パキスタンと数回、中国と1回交えた限定的な戦いで成果を挙げなかったことから、インドは挑発行為に対して慎重に対応する傾向がある。

 隣接する両大国とは長年領土紛争を抱えているが、インドは大抵、紛争をエスカレートさせないようにする(もっとも、インドは国境線を正確に記す地図をすべて検閲しており、インドのメディアは恥じ入りながら容認している)。

 インドは決して自ら災難を招くような行動はせず、そうした態度は概ね、インドに有利に働いてきた。

■欠かせないインド

 だが、戦略文化の欠如は代償を伴う。
 パキスタンは危険かつ不安定で、核兵器を大量に保有し、聖戦主義者の暴力によって引き裂かれているうえ、過激な若手将校に脅かされた陸軍司令部に対して無防備だ。
 それなのに、インドはパキスタンへの対応について論理的に考えようとしない。

 軍が国境を越えた電撃攻撃を計画しているにもかかわらず、政府は貿易の拡大が関係改善につながることを期待している。

 インドはカシミール問題の古傷を癒やし、パキスタンの文民政府を支援するために、もっと努力しなければならない。
 例えばパキスタンは現在、選挙によって選出された文民政府から次の政府への初めての政権交代を迎えようとしている。
 インドのマンモハン・シン首相は、パキスタンの次期指導者を訪問する手はずを整えて、移行プロセスを後押しすべきだ。

 インド洋を含め、戦力を投射する意思と能力を高める中国は、また別の種類の脅威をもたらしている。
 中国が自国の利益を拡大し、場合によってはインドの国益を危険にさらすために、どのような形で軍事的、経済的な力を行使するのか、確かなことは誰にも分からない。

 だがインドには、中国のその他の近隣諸国と同様、神経質になるだけの理由がある。
 同国はどんな小さなエネルギー供給の混乱にも極めて脆弱だからだ(インドは世界人口の17%を占めているが、確認されている石油・ガス埋蔵量は世界全体のわずか0.8%に過ぎない)。
 インドはそろそろ、自国の定めと地域の運命を自らの手で決め始めるべきだ。
 戦略をもっと真剣に捉え、強国にふさわしい外交当局――少なくとも現在の3倍規模――を構築する必要があるだろう。

 インドには、より専門的な防衛省や政治指導者と連携できる統合された国防スタッフが必要だ。
 瀕死の状態にある国営軍事産業に民間および外資系企業が参入できるようにする必要もある。
 さらに、世界でも極めて往来の多いシーレーンで海洋安全保障を提供するとともに強国としての責任を果たすインドの意思表明にもなる、
 豊富な資金を持った海軍が必要だ。

■問題は能力ではなく意思

 だがインドは何より、非同盟主義という時代遅れな思想を捨てなければならない。
 2005年に米国と核協定を結んで以来、インドは西側に傾倒してきた。
 国連では米国の意向に沿った投票を行い、イラン産原油の購入を減らし、アフガニスタンではNATOと協力し、スリランカの抑圧やミャンマーの変遷といった地域の問題には、西側と足並みを揃えて取り組んできた。
 ただし、こうしたことを人目につかないようにやってきた。

 西側諸国の支援を受けた安全保障同盟に参加することでインドが方針転換をより明確にすることは、地域ひいては世界にとってプラスになるだろう。
 それはアジアで民主主義を進展させ、中国に国際基準の遵守を促す一助になるはずだ。

 中国の反感を買う可能性もあることから、インドの短期的な利益にはつながらないかもしれない。
 だが、短期的な国益の先を見ることこそ、強国がやることだ。
 インドが強国になり得ることに疑いの余地はない。
 問題は、インドがそれを望むかどうか、だ。

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