2013年4月12日金曜日

フィリッピン展望:初の投資適格級に、まだまだこれから






JB Press 2013.04.11(木)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37554

(英エコノミスト誌 2013年4月6日号)

変わるフィリピン:初の「投資適格級」格付け
フィリピン列島がこれほど信用力を増したことはない。

 新興国の多くは、輸出と輸入の格差を埋めるため外国の債権者に依存している。
 フィリピンの場合は少々事情が異なる。
 海外の雇用主に依存しているのだ。

 労働人口のざっと4分の1に相当する1000万人超のフィリピン人が、世界200カ国以上の国々で恒久的または一時的、合法的または違法に生活もしくは就労している。
 彼らの送金は国内総生産(GDP)の8.5%に相当し、フィリピンが貿易赤字を埋め、800億ドルを超す外貨準備を積み上げるのに一役買っている。

■今や立派な対外純債権国



 その結果、フィリピンは単なる労働力の純提供国ではなく、世界に対する純債権国にもなった(図参照)。

 こうした堅固な対外収支は、格付け会社のフィッチが3月28日にフィリピンに同国初の投資適格級の信用格付けを与えた理由の1つだ。

 投資適格級への格上げは長らく待ち望まれてきたもので、温かく歓迎された。

 中央銀行総裁は当初、格上げは「神のお墨付き(the seal of God)」を意味すると語ったと伝えられた。
 もしそうだったら、これまでに格付け会社について語られた最高の賛辞だったかもしれない。
 総裁が実際に語った言葉はもっとありふれていた。
 「きちんとした財政運営に対するお墨付き(the seal of good・・・good housekeeping)」
だったのだ。

 現政権と前政権は、フィリピンの財政再建に熱心に取り組んできた。
 2003年にGDP比68%だった債務を昨年41%まで削減する一方、低利で借り換えを行い、国債の残存年数を(平均で10年を超すところまで)延ばすとともに、世界が強い買い意欲を示しているペソ建て国債の割合を高めている。

 現在、政府は財政の管理の域を超えて、大いに必要とされている修復作業を進めている。
 フィリピンの財政は狭い基盤の上に成り立っている。
 昨年の税収はGDP比13%にも満たなかった。
 実に微々たる比率で、公共投資が経済規模の3%足らずだった理由も説明がつく。

 歳入を増やすために、政府は昨年、タバコと酒に対する「罪悪税」の法案を可決した。
 上院をわずか1票差で通過した同案は、1月1日に施行された。
 強力なビールメーカーとタバコ農家が存在する国で、同税は「政治的な勇気」が要った、とフィッチのアンドリュー・カフーン氏は言う。

 原理的には、格上げはフィリピン国債の購入に前向きな投資家の層を厚くし、同国の借り入れコストを引き下げるはずだ。

 国際通貨基金(IMF)のローラ・ハラミジョ、カタリーナ・ミシェル・テハダ両氏によると、国の格付けが投資適格級になると、その国の借り入れコストと米国債の利回りの「スプレッド」は3分の1以上縮小するという。 

■真の「お墨付き」は・・・

 だが、フィリピンは外国人投資家の無関心に苦しめられているわけではない。
 実際、中央銀行はペソ相場を押し上げたり、インフレや資産バブルを招いたりする恐れがある過剰な資本流入に頭を悩ましてきた。

 もしかしたら、今回の格上げと、格上げが反映している進展は、海外で働く一部のフィリピン人に帰国を促すかもしれない。
 フィリピン経済にとっては、それこそが最も説得力のあるお墨付きになるだろう。

© 2013 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。



JB Press 2013.04.13(土)  川嶋 諭
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37578

東日本大震災から半年、急に始まったフィリピン進出
IT開発のメッカになりつつあるセブ島、外食産業も急伸中



 3月28日、フィリピンに朗報が届いた。この国の外貨建ての長期債が格付け会社フィッチによって投資適格級(BBB-)に引き上げられたのだ。
 市場関係者の間ではすでに投資適格級とされていたので、市場には大きなインパクトは与えなかったようだが、何しろフィリピンが投資適格になるのは初めてのこと。
 政府関係者や中央銀行の喜びはひとしおだったようだ。

■フィリピン、初の投資適格級に

 早速、英エコノミスト誌が記事を書いている。その「変わるフィリピン:初の投資適格級格付け」によると、フィリピンの中央銀行総裁が「神のお墨付きをもらった」と語ったという。

 一般には悪名高い格付け会社を“神”と呼ぶのだから、そのうれしさが伝わってこようというもの。

 もっとも皮肉が好きなエコノミスト誌は
 、「もしそうだったら、これまでに格付け会社について語られた最高の賛辞だったかもしれない」
とチクリ。

 それはともかく、このところフィリピン経済の伸張は著しいのは事実。

 今回は日本がこれまであまり関心を示してこなかったフィリピンの変化について、現地で長らく日本企業の進出を数多くサポートしているフィリピン和僑総研の三宅信義社長のお話を基にお伝えしたい。

 慶応大学に在学中からフィリピンにはまっていた三宅さんは、1998年に大学を卒業すると就職することなく、100万円を持ってこの地にやってきた。

 しかし、100万円は遊興費などですぐに使い尽くし、日本に帰国するか現地で真剣に仕事を探すかの選択を迫られた。できることならばフィリピンを離れたくない。

 焦り始めた頃、日本人駐在員の子息向けに学習塾をやってみようと思い立った。
 日本人であふれているタイのバンコクなどとは違い、日本人向けのサービスは当時も(今でも)ほとんどなかったので、駐在員の間で評判になった。

 日本の大手進学塾で使っているテキストを参考にして教え、帰国子女枠を使った大学入試を中心に指導したところこれが大当たり。
 生活費は十分に稼げるようになったという。

 一方、当時としてはまだあまり普及していなかったインターネットを活用した情報発信も始めた。

 フィリピンと言えば危険な国という多くの日本人が持つ先入観を逆手に取って、「フィリピン危険情報」というメルマガを始めたら、すぐに5000人もの読者がついた。
 フィリピンでの遊興が役に立ったわけだ。

■フィリピン好きが高じて日本人の駆け込み寺に

 すると、読者などからフィリピンのビザを取りたい、事業を始めたいという相談が舞い込むようになり、コンサルティングを始めるようになった。
 こうして2004年、フィリピン和僑総研が生まれた。

 フィリピンで事業を起こすにはどうすればいいか、どうしたらフィリピン人に騙されないかなどの相談に乗り、若い起業家たちからは「フィリピンの駆け込み寺」とも呼ばれるようになった。

 また、日本の少子高齢化問題にもビジネスチャンスを見出し、セブ島で老人介護施設の建設を始めている。
 海が見える小高い丘の上に施設を建設中で、日本語と日本的サービスができるようにフィリピン人を現在教育中だ。

川嶋:
  英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のデビット・ピリング氏が、好調なフィリピン経済について何度か書いています。
 日本でも脱中国の候補地としてフィリピンに注目が集まるようになってきました。
 ちょっとしたフィリピンブームだと思いますが、マニラにいてそれを実感されることはありますか?

三宅:
 東日本大震災から半年後ですね。
 震災までは日本からの企業進出はぽつぽつという感じだったのが、震災でぱったりやんでしまった。
 ところが、この年の秋、9月から10月になると急に問い合わせが増え始めました。
 そして2012年に入ると、日本総研が
 「本命インドネシア、ダークホースはフィリピン」
というリポートを出したりして、さらに勢いが増してきました。
 そして昨年の後半に入ると、どうでしょうか、フィリピンへの進出企業数は震災前の3倍近くにはなっていると思います。
 村田製作所とかキヤノン、ブラザーのような大企業も工場を建設しています。


川嶋:
 大きなメーカーの進出はやはり脱中国の影響もあるんでしょうね。

三宅:
 それはあると思います。
 フィリピンも旧日本軍に侵略された歴史を持っていますが、フィリピンの人たちは基本的に日本が好きなんです。
 フィリピンは平均年齢が若い国ということもあるでしょうが、ほとんどの人は戦争のことは覚えていない。
 フィリピンで日本占領下のことを言う人はいない。

 私は学生の時を含めるとフィリピンに来て18年経ちますが、「日本との戦争が・・・」と言われたのは1回あったかな、というくらいです。
 第2次世界大戦のことは誰も言わない。

 中国や韓国は今でも反日教育を続けているでしょう。
 だからあんなデモやら何やらをやるんでしょう。
 フィリピンはそんな教育をしていないから、反日にはなり得ません。

 セブの空港があるマクタン島にはプラモデルメーカーのタミヤの工場があります。
 そこで聞いた話ですが、タミヤは日本が中国に熱を上げている時でもブームに乗らず、フィリピンを選んだそうです。
 理由は、中国では勝手にコピーされてしまうからということでした。
 フィリピンの人は勝手にコピーしようという人はほとんどいない。
 中国人のようにたくましい商売根性がないのかもしれませんが・・・。(笑)

川嶋:
 このところ急にフィリピンに注目が集まっているのは、やはり政治の影響が強いのでしょうか。

三宅:
 そうです。2010年に就任したアキノ大統領が就任早々から腐敗撲滅を掲げましたよね。
 口だけじゃなくて、実際にまず隗より始めよとばかりに、自分の近くから徹底してクリーンにしていった。
 一番最初の例は、大統領が移動する際には白バイやパトカーが前後を警備して行く先々の信号を全部青にして通していたのを全部やめてしまったこと。
 大統領だからと言って特別扱いしないのだと。

 アキノ大統領が就任してそろそろ3年経ちますが、確実にその効果は現れてきています。
 上院議員の頃は目立たない存在で、大統領になっても何もできないのだろうと皆思っていたら、あにはからんや。
 人間というのは見かけによらないものです。
 政治家や官僚の腐敗が抑えられると、海外の人たちも安心して投資できるようになったということだと思います。


川嶋:
 さきほど村田製作所やタミヤ、キヤノンなどの社名が出てきました。
 フィリピンでも進出してくるのは製造業が中心なのでしょうか。

三宅:
  これからは増えてくるのではないかとも思いますが、タイなどとは違って、
 実は製造業の進出はあまり多くありませんでした。

■ウイルスソフトの開発にぴったりの性格

 フィリピンの人たちはラテン的な性質を持っているようで、毎日同じ時間にコツコツと同じ作業を続けるのは得意とは言えないようです。
 最近特に多いのは、IT系の企業やサービス産業ですね。
 フィリピン人の特性を表すいい例があるんですよ。

 米国のあるコンピューターウイルス対策ソフトのメーカーの研究所がマニラにあります。
 なぜマニラに研究所を作ったかと言うと、フィリピン人の性質がウイルス対策ソフトの開発にぴったりなんだそうです。
 ウイルス対策は、いつ作られるか分からないウイルスを待っていなければなりません。
 出て来なければただじっとしていなければならない。
 これが欧米人や特に日本人には苦手なんだそうです。
 貧乏性なのか、仕事がなく待っているだけというのに我慢がならない。
 逆にフィリピンの人たちは暇さえあれば仲間と楽しくおしゃべりを楽しみたいから待つのは嫌ではない。
 ウイルスソフトの開発のような仕事にはぴったりだと言うんです。

川嶋:
 へぇ、それは面白い。
 セブ島にはITパークというエリアがあって、米国のシリコンバレーのような雰囲気でした。
 フィリピンの人たちはソフト開発が得意なんですか。
 かつて、中国の大連に取材に行ったことがあります。大連は旧満州の重要拠点で今でも日本統治時代のマンホールや鉄道の駅舎が残っていて、中国における日本語教育のメッカになっています。
 日本語を話せる中国人も多いということで、日本企業が大連にソフト開発拠点を次々と作りました。
 しかし、結果は芳しくなかった。
 その理由は、非常に自尊心の強い中国人は日本人の指示通りにソフトを書かず、勝手にアレンジしてしまうと言うんです。
 話せる話せないの問題ではなくて、日本語という言語の根本的・構造的な壁があって、中国人にはどうしても理解できないようでした。
 だから、自分の方法でやろうと。

三宅:
 フィリピンでは、指示された以上のことはやりません。
 そんなことをやる必要がありませんし、それをやって目立ってやろうというような意識もない。
 ある意味とても純粋ですね。
 日本の企業にとって、フィリピンのソフト技術者は使いやすいのではないでしょうか。
 実際、私のところに相談に来る日本企業の約6割はソフト開発系の企業です。
 英語はきちんと使えるし、人件費は安いし、フィリピンでオフショア開発しようという企業はこのところぐんと増えてきました。

■日本の外食産業が次々と進出中

川嶋:
 IT系以外だとどんな種類の日本企業が進出してきていますか。

三宅:
 6割がITで、残りは飲食店やサービス業が大半ですね。
 とりわけ飲食店の進出は昨年後半から一気に拡大し始めました。
 ラーメン店に限っても、今年に入ってから10軒はできた。
 フィリピンはご承知の通り、出稼ぎ国家でしょう。
 約2兆円のお金が出稼ぎによって毎年フィリピンにもたらされています。
 そのお金はこういう国ですから貯蓄などせずにほとんど使ってしまう。
 だから内需は堅調です。

 さらにフィリピン経済が非常に好調なので、日本の飲食店などは今後ますます増えると思います。
 バンコクやジャカルタなどに比べても遅れていましたからね。
 やっとフィリピンにも日本食のブームが来てくれた、という感覚です。

川嶋:
 タイのバンコクへはこのところ半年に1回程度は行くのですが、訪問するたびに日本食の店が増えているのには驚かされます。
 昔のような日本食というカテゴリーのお店があって、そこでは寿司でもラーメンでもとんかつでも何でも出すというのではなく、それぞれのカテゴリーで専門店が進出していて、どれも日本とほとんど変わらない味を出している。
 2月にもバンコクに新しくできた巨大なショッピングモールを見てきましたが、そういう日本のお店がいっぱい出ていました。

 ところで、フィリピンはやはりマニラ中心ですか。
 セブ島もなかなかビジネスをするにはよいところだと思いましたが。

三宅:
 私のところに相談に来るお客さんは、マニラよりも最近はセブ島の方が多いですね。
 マニラも治安は良くなったと言っても、やっぱりマニラですから。
 渋滞も激しいし人件費もセブ島よりはかなり高い。

 最低賃金を比べると、マニラが1日465ペソなのに対してセブ島は305ペソです。
 外国人が家を借りるコストもマニラの6~7割で済むと思います。
 それに治安が良く、おまけにビーチまである。
 ITなどはセブが中心になっていくのだろうと思います。

川嶋:
 今後も日本企業にとってフィリピンブームは続くでしょうか。

三宅:
 そう思います。
 正確な数は分かりませんが、マニラには1万5000人ほど日本人が住んでいると言われています。
 タイのバンコクでは、すでに10万人規模と言われるでしょう。
 フィリピンはまだまだ少ない。
 これだけ英語ができて、内需も旺盛ですから、このトレンドは簡単には変わらないと思います。

川嶋:
 将棋にたとえれば、日本企業にとって東南アジアの国ではタイが飛車だとして、フィリピンは歩のような存在だったと言うことでしょうか。
 でも、それが着実に歩みを進めてきて、と金に変わる寸前。

 セブ島では若い日本の企業家のエネルギーに圧倒されました。
 これからが本当に楽しみです。どうもありがとうございました。






【中国はどこへむかうのか】


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